オゾン層破壊物質に対する物品税 | KPMG | US
最近、電子製品の輸入者をターゲットにしたオゾン層破壊物質(ODC)に関する物品税の税務調査件数が急増しており、税務調査で100万ドル単位の追徴を受けるケースも見られます。本稿では、ODC物品税に関する税務調査の最新傾向ならびに対応策を説明します。
Excise Taxは、物品・サービスの使用および消費に対して課税される連邦税です。ガソリン、タバコ、アルコールなどの物品に対する課税や、電話や航空運賃などのサービスに対する課税などが例として挙げられます。Excise Taxは、関税が物品を輸入した際に課税されるのに対して、国内で物品やサービスの消費が行われた際に課税されるため「内国消費税」とも呼ばれますが、その目的は特定の政策目標を達成するために消費者の行動を誘導することにあり、日本で1989年4月消費税導入とともに廃止された贅沢品等に課税した物品税に類似しているため、本稿では、「物品税」という日本語訳を使用します。
オゾン層とは、地表から15キロメートル~35キロメートルの成層圏に存在するオゾンの層で、太陽からの有害な紫外線を吸収する働きを持っています。この有害な紫外線が地表に届くと皮膚ガンやその他の皮膚疾患の原因となるため、我々人類の安全な生活にオゾン層は不可欠です。このオゾン層を破壊する化学物質がODCです。日本ではフロンガス、もしくはフロン類と総称される化学物質ですが、不燃性で毒性も無く非常に安定しており、過去には、様々な産業用途で幅広く使われていました。具体例としては、エアコンや冷蔵庫の冷媒、プリント基板製造の際の洗浄剤、一番身近なところでは、ヘアスプレー用の高圧ガスなどに使用されていました。
1980年代初頭、南極大陸上空のオゾン層に穴が開いていることが発見されました。このオゾンホールが出現した原因を究明すると、産業活動により大気中に放出されたフロンガス等の化学物質に紫外線が当たることにより化学反応が起き、オゾン層が破壊されていることが判明しました。世界各国は、産業活動によるオゾン層の破壊を制限する枠組みを作ることで合意し、1987年に「モントリオール議定書」が採択されました。このモントリオール議定書は、2009年11月現在、196カ国により批准されており、1995年以降ODCの生産を禁止し、既に生産されたODCの使用を制限することを定めています。ただし、発展途上国については適用の猶予期間が与えられており、発展途上国におけるODCの全廃は、ODCの種類にもよりますが、2009年以降となってい ます。
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米国では、モントリオール議定書の採択を受けて、ODCに物品税を課税することによって、議定書の合意を履行することを決定しました。この結果、課税によりODCの使用コストを増大させることにより、代替技術の相対的価格競争力を高めて、その普及を促進することを目的としたODC物品税が1990年1月1日発効しました。物品税の対象となるODCは、内国歳入法第4682条(a)(2)により、フロンやハロン等、20種類の化学物質が指定されています。
ODC物品税は、①ODCの販売・使用②ODCの在庫、③ODCを使用して生産された輸入品の米国内での販売・使用を課税対象としています。このうち、在米日本企業に最も関連性が高いのが③の輸入品に対する課税です。最近の税務調査で問題となているのも、ほぼ全てのケースが輸入品に対する課税であるため、以下は輸入品課税に絞って話を進めます。
次の条件を両方満たす物品が消費、使用または保管目的で米国内に持ち込まれた場合、ODC物品税の対象となります。
- 生産・製造過程でODCが使用されていること
- 財務省細則による「輸入品目表(Imported Products Table)」に記載されていること
従って、生産・製造過程でODCが実際に使用されていない物品や、輸入品目表に記載されていない物品は、ODC物品税の対象とはなりません。また、米国内に持ち込まれた後、保管もしくは再包装され、米国内で使用または販売されることなく、再輸出された物品も課税対象外となります。
前述の通り、ODCを使用して製造された製品が米国に輸入された場合、輸入品目表に記載されているものであれば、電子製品に限らずODC物品税の課税対象となりますが、現在、内国歳入庁(IRS)は、実質的に電子産業のみをターゲットとして税務調査を行っています。一般的に、電子製品にはプリント基板が組み込まれています。モントリオール議定書発効以前は、プリント基板に付着する半田の残りかす等を洗浄するためにODCが使用されていましたが、モントリオール議定書発効以降は、半田自体を改良して洗浄の必要がなくなった無洗浄半田や、ODCを含有しない代替洗浄剤などの代替技術が開発されました。しかし、発展途上国においては、モントリオール議定書発効以降も一部ODCの使用が認められており、新しい技術の導入にはコス� ��がかかるため、いまだにプリント基板の洗浄にODCが使用されている可能性があります。米国に輸入される電子製品の多くが中国や東南アジアで製造されていることもあり、IRSは電子製品に焦点を当てて税務調査を行っています。
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なお、輸入品目表には、様々な工業製品が統一関税一覧表(HTS)コードによって分類され、製品名ごとに、当該製品を製造する際に使用されたとみなされるODCの種類とみなし使用重量が記載されています。ちなみに、この輸入品目表には、ほぼ全ての電子製品が記載されており、具体的な製品名が明記されていない電子製品も「その他の電子製品」に該当するため、米国外から輸入された電子製品は、実際にODCが使用されていないことを立証できない限り、原則として、すべてがODC物品税の対象となります。
税額の計算方法
ODC物品税の税額は、基本的に以下の数式で計算されます。
税額 = 税率 × オゾン層破壊係数 × 製品に使用されたODCの重量
「税率」は、1ポンド当たりのODCに対して$12.10(2010年の税率)となっており、毎年45セントづつ増えるので、2011年には1ポンド当たり$12.55となります。
「オゾン層破壊係数」は、ODCに指定されている20種類の化学物質ごとに、オゾン層に対する影響の度合いに基づき割り当てられた係数です。例えば、ハロン類はその他のODCに比べて影響が大きいので、そのオゾン層破壊係数が他のODCに比べて3倍から10倍高くなっています。
「製品に使用されたODCの重量」は、原則として、実際に使用されたODCの重量(実績法)もしくは輸入品目表に記載されているみなしODC使用量(輸入品目表法)により決定されます。実際のODC使用量が分からず、輸入品目表においてみなしODC使用量が規定されていない場合には、税関申告価格の1%を税額とする税関申告価格法の適用が認められます。
実績法を使用するためには、輸入品の製造者から製造過程で使用したODCの種類と重量を明記した「製造者レター(Manufacturer's Letter)」を入手する必要があります。ODCを使用していない場合には、使用重量ゼロと記載されたレターを入手すれば、実績法により税額はゼロとなります。これに対し、輸入品目表法では、実際のODC使用の有無に拘らず輸入品目表に記載されているみなしODC使用量を使って税額を計算するため、税額がゼロになることはありません。また、税関申告価格法も、実際のODC使用の有無に拘らず課税が発生します。従って、納税者がODC物品税の課税を回避する唯一の手段は、不備のない製造者レターを取得して、実績法の適用をIRSに認めさせるしかありません。
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物品税に関しては、IRSは税関から情報を受け取る協定を結んでおり、IRSの税務調査官は、税関申告資料を基に課税対象輸入品の輸入者を割り出し、税務調査の対象を選定しているようです。一旦税務調査が開始されると、IRSの税務調査官は、課税対象品はODCを使用して製造されているとの前提で調査を行います。ODC不使用の立証責任は輸入者にあり、輸入者が不使用を立証出来ないと、輸入品目表法もしくは税関申告価格法によるみなし課税で税額を計算し、追徴されることになります。本来、輸入品の製造者からODCを使用していないことを明記した製造者レターを取得していれば、実績法に基づいて税額はゼロとなるはずですが、過去にODCを使用している製造者からODCの不使用を謳った製造者レターが乱発された経緯があり、製造者レ� ��ーの信憑性に疑いが生じたため、近年IRSは税務調査方針を変更し、輸出国の政府による認証や、ODC代替技術の具体的な詳細(機械の種類、導入年月日、代替技術供給者の名称、代替技術購入時の請求書等)を製造者レターに記載することを要求してきます。また、輸入した製品の最終的な製造者からだけではなく、その輸入品に組み込まれているプリント基板の製造者からのレターの提出も要求されます。
輸入者がこれらの全ての要求を満たした製造者レターを取得するには、いろいろなハードルがあり、多くの場合、長い時間がかかります。実際に、税務調査が入ってから製造者レターを取得しようとしても、製造者が既に廃業していたり、また1990年代前半に導入された代替技術に関する当時の資料を集めるのに非常に時間がかかることがよくあります。調査官は、製造者レターの提出期限を設けてくるため、必ずしも十分な時間をかけて製造者レターを取得することができるとは限りません。このため、税務調査が入る前に、各輸入品目ごとに、製造者およびプリント基板製造者から、ODC不使用を明記した製造者レターを取得しておくことが重要となります。できれば、新たな製品を輸入する際には、その都度製造者レターを取得してお くのが理想的です。
税務調査の際に、調査官は、詳細な製造者レターの提出の代わりに、IRSが開発した製品テストの実施を提案してくることがあります。IRSによると、このテストは、製品からODCを検出し、製造時にODCが使用されていないかどうかを判定するものです。IRSは、製品テストへの同意を輸入者に求めることがありますが、この製品テストには、以下の通り、様々な問題点がありますので、一般的に同意することはお勧めしません。まず、製品テストに関する技術的・統計的な情報公開が行われておらず、何件のテストが行われたのか、テストの結果ODCが検出された割合がどれくらいか等の情報が一切ありません。また、製品パッケージに使用したODCはODC物品税の課税対象ではありませんが、この製品テストでは、課税対象となるODCと課税対象外のO DCとを区別出来ないという技術的な問題があります。さらに、この製品テストでODCが検出された場合、IRSは当然ながら追徴を行いますが、テスト結果という証拠があるため、これを覆すのは非常に困難となります。
また、税務調査の事前対応として、自社製品を独自に試験場に持ち込んでテストをしておきたい、とのご相談を受けることがありますが、これもお薦めしません。税務調査の際には、独自に製品テストを行っているのであればそのテストの結果を提出するように要求されますので、万一不利な結果が出ても提出せざるを得なくなり、それに基づき追徴が行われるリスクがあります。一方、ODCが検出されなかった場合でも、そのテスト結果をIRSが受け入れる保証はありません。また、特殊なテストですので、費用も高額となります。
輸入者は、税務調査における追徴に関し、不服審判所(Appeals)に不服申し立てを行うことが出来ます。この不服審判所は、IRS内部の組織ですが、担当審判官が一定の中立的立場で税務調査の結果を再検討するものです。現場の調査官レベルでは、非常に高額な課税を強引に行ってくるケースが多々ありますが、不服審判において追徴の減額が行われることは珍しくなく、過度に強引な税務調査の結果が大幅に修正されたり、追徴額がゼロとなるケースもあります。税務調査官により否認された製造者レターが不服審判で認めれらることもあります。不服審判に要する期間は通常1年程度ですが、不服審判官から追加資料を請求されることもあり、1年以上の期間を要することもあります。
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